※ 2006年の原文そのままでご覧下さい・・・・・
サクラマス釣行記 《永遠の別離》
彼女とは〝縁〟が無かったのだ。
そう思う以外に、自分自身で納得する方法は無い。
たったの15秒間足らずではあっても、
束の間の逢瀬を感じ合ったのだから・・・
“ 出逢いも人生ならば、別離もまた人生である ”
・・・《ポイント・チェリー》・・・。
今回から、新しいポイントをそう名づけよう。
サクラポイントとは、何より縁起が良いではないか?
今、目を閉じれば・・・
彼女が現れてから去っていくまでのたった15秒間が、
スロー再生された映像のように、鮮やかに蘇る。
彼女を忘れない為に、想い出をここに残そう・・・・・
まだ2月だというのに、この暖かさは何だ!
無風で、日差しが射して、水面はまるで鏡のようだ。
現場に着いた時に、真っ先にそう思った。
ロッドの選択に少しだけ悩んだが、
ミノーをメインで使いたいのと、
5gのスピナーを試してみたかったので、
TSSとセルテートの組み合わせを選択した。
S氏と分かれてから、ひとりでいつもの上流部へ向かった。
いつもなら迷わず中央の釣り座に入るのだが、
ふと、更に上流のポイントが気になった。
歩きながら入れるかどうか確認すると、新たな場所が3ヶ所。
どうせならと、一番上流から順に下がって行こうと思い、
初めての場所に入った。
ミノーでと決めていたが、一投目からのロストが恐かったので、
シュガーディープ・ショートビルを選んだ。
カラーは、シャンパンゴールドのベースに、
グリーンのタイガーでピンクベリーというものだった。
いつものように第一投目をややアップクロスに打つ!
着水から1/3程巻いたところで逆引き・・・
つまり、ミノーがやや斜め上流に向いたことが伝わってきた。
大きめのトゥィッチを4回入れる。
まずは、ストラクチャーにもつかまらず無事に戻ってきた。
二投目は正面にクロスで打つ!
今度はいくらも巻かないうちに巻き抵抗が増した。
そのままただ巻きで足元まで引いてくる。
水色が綺麗なのでミノーが良く見える。泳ぎは良い。
三投目はややダウンクロス気味に打ち込んだ!
着水と同時にミノーが潜り始めたので、
巻かずにドリフトさせながら下流に回りこむのを待った。
たちまちのうちに、完全に逆引き状態になったので、
巻くスピードを若干遅くして、
足元の際を舐めるように引いてきた。
ミノーがほぼ私の正面に近づいた時だった・・・
何かが、ミノーを目掛けて浮き上がってきたのだ!
あっ!という間にミノーに追いつき〝ガツン〟とぶつかった。
間髪を入れずに〝グンッ〟と右手のロッドに重みが乗った。
真っ白い腹をこちら側に見せて、反転しようとしている。
「サクラマスだっ!!!!!」
ライン抵抗に阻まれて、反転出来ないとわかると、
今度は身体を〝C〟の字のようにくねらせている。
水中で倒立したまま、何度も何度も・・・
ロッドティップが〝グンッググンッグンッ〟と引かれて、
いつもの手応えが右手に伝わってくる・・・
普段と違うのは、彼女の動きが丸見えだということだけだ。
無意識のうちに右手を高く突き上げていた。
彼女とのテンションを失いたくなかったのだと思う。
そのまま、素早く後を振り返りネットを足元に置き直した。
さてここからだ・・・・・
彼女はまだ、身体をくねらせてこの状況から逃れようとしている。
いっそのこと、このまま掬い上げてしまおうか?とも考えた。
いやしかし、失敗する事が恐かったし、
サクラマスのファイトがこのままでは終わらないことは、
以前の経験から、充分に理解しているつもりだった。
ならば、早く第二段階に進んで欲しいと願っていた・・・
どんなに走られたとしても、それをいなす自信があったし、
ランディングは充分に弱らせてからの方が確実だと考えていた。
彼女は、少し弱ったのだろう・・・・・
身体をくねらせながら、徐々に浮き上がってきた。
そして、ミノーが水面を割った瞬間と彼女の最後の反転が重なった!
右手で突き上げていたロッドから、テンションが ふっ と消えた。
痛恨のフックアウト!!!
そこには・・・
自由の身になった彼女が後を振り返る事も無く、
水底に戻っていく後姿だけが残ったのである・・・・・。
後に、冷静になってみれば・・・
私が犯した、決定的と思われるミスが2つ考えられる。
まずひとつは、
《合わせ》を入れていなかったことだ・・・
ロッドに重みが乗ったのをフッキングしたと思い込んでいたのだろう。
普段なら、生命反応を確認した時点で、
2度でも3度でも納得がいくまで追い合わせを入れる。
振り返って思い出せば、それは魚が見えていない事を前提としていた。
今回は、あまりに早い段階でサクラマスを直に見たことで臆病になり、
合わせを入れるという動作を躊躇したのではないだろうか?
もうひとつは、
無意識にではあるが、《ロッドを立ててしまった》ことだ・・・
その結果、サクラマスを浮き上がらせてしまった。
体力のある初期の段階で頭を水面に出すというのは、
フックアウトの危険性を加速度的に上げる。
シーバスであれ程経験していたはずなのに、
頭では理解していても、身に付いていなかったということだろう。
もしもこうしていたら?というのは・・・・・
後で何とでも都合よく解釈できるのではあるが、
もしもあの時、ロッドを水面と平行に寝かせていたら、
サクラマスは水面まで出ることは無かったのでは無いだろうか?
シーバスを釣る事で極めて重要な経験をし、悟った事がある。
<獲れる魚はどんな事をしても獲れる!>
<バレル魚はどんな事をしてもバレル!>
もちろん、テクニックでカバーできる事は沢山あるが・・・
基本的な考えとしてである。
だから今回、
サクラマスをバラした事を、それ程悔やんではいない。
むしろ、友人達とあれ程話していた事・・・
《足元から出た場合にどうしたら良いか?》が、
私の身に起こった時に、冷静に対処出来なかった事が悔やまれる。
・・・何はともあれ、奇跡の出逢いは私の手から零れ落ちた・・・
彼女とはもう、永遠に出逢うことはないだろう。
願わくば、彼女が全ての釣り人の手から逃れつづけて、
今秋・・・母なる支流に辿り着き。
次の世代に想いを託せますようにと願うばかりである。
私はなんて勝手なんだろう・・・
これまで何度も、
次世代へと続く流れを、自らの手で断ってきていながら、
自らの手を逃れた彼女には次世代へ続けと願っている。
釣り人の自分勝手なエゴと矛盾がここにある。
私は君に約束する!
サクラマス釣りを続けている限り、
数年後に出逢うだろう〝彼女達〟に、必ず問い掛けよう!
お前は・・・
あの時の〝彼女の生〟を受け継いでいる者か?・・・と。
如何だったでしょうか?
この時の彼女が、その秋に無事に産卵して、
その時の卵が孵化するのが翌春(2007年)・・・
普通、サクラマスの寿命は3年~4年
1年半を川で過ごしてから海に下り1年半後に戻ってくる・・・・・
すると、
昨日、私のフックを自らの力で外し、水底へと消えていった彼女は・・・
もしかすると・・・・・あの時(2006年)の彼女の子供?????
昨日の結果は、もう既に決まっていた事なのかも知れません。
だから、全然悔しくないのです。
むしろ、とても心の中に温かいものが広がりました。。。
ねっ!
釣りって、なんて面白いんでしょう?
サクラマスって、なんて素晴らしいんでしょう?
この頃、自分に対するひとつの答えが思いついた!
サクラマスを狙って川辺に立つ度に頭の中に浮かぶ・・・その答えとは?
私は、サクラマスを釣りたいのでは無い!
私は、サクラマス釣りをしたいのだ!
長々とお付き合い頂きまして、本当にありがとうございまいた
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