出逢いの記録回想

kun坊

2010年04月22日 10:02

 マイ・ホームリヴァー(北上川)が流れる、

 宮城県北部にも、やっと〝桜前線〟が届いたようです。




 まだまだ一分咲きというところですが・・・

 この桜の花びらが散る前に、もう一本! 彼女を手にしたいですね



 初心を忘れないように、

 また、昔の「釣行記」を引っ張り出してきました

 最早、あの頃の情熱を取り戻す事は出来ないとは分かっていますが・・・

 少しでも、ピュアだったあの頃を振り返ってみようと思います。


『 サクラマス釣行記 』  <出逢いの五>



ふと、目が覚めた。
おやっ?アラームはなっていない。何時だろう・・・。
セットした時間は、もうとっくに過ぎていた。
♪LAYLA♪ で目が覚めなかったのは、初めてかもしれない。
障子越しに、外が明るくなり始めているのがわかる。

行こうかどうか少しだけ迷ったが、N君が言った昨夜の一言が思い出された。
 
 「パチンコに行かないと、一日が終わった気がしない人のように、
 朝、釣りをしてからじゃないと、一日が始まらなくなって来たんじゃない?」 

まったく・・・その通りかもしれない。。。

明るくなってからポイントに着くのは、どうもしっくり来ない。
別に特別な拘りがある訳ではないけれど、
明るくなる少し前の、あの何とも言えない緊張感と、
朝靄の中、刻一刻とドラマチックに明るくなっていくすがすがしさが、大好きだ。

そして今日もまた、ここに立っている・・・・・< Point T >。

ここは、周りを水の流れに囲まれているので、
まるでウェーディングをしているような気にさせられる。気分がいい。

手にしているのは、フェンウィックのワールドクラス 8′3″。
「今年は、ベイトタックルでサクラマスを・・・」 なんて宣言しておきながら、
テクニックの未熟さからトラブルが多く、この頃めっきり出番が減っていた。
今週は、覚悟を決めてこれしか持って来ていない。
そしてもうひとつ、今日はいつもよりボトムを意識してみようと考えていた・・・。

一投目!
ラインの先に結ばれた<サクラマススペシャル>という名のスプーンは、
カルカッタに巻かれたばかりの16lbラインを気持ち良く引き出してくれる。
サミングして距離をコントロールするまでもなく、ほぼ目指していた場所に着水した。
ラインスラッグを取り、フォーリング中のラインにテンションをかけて神経を集中させる。
そろそろボトム・・・クンクンッ! えっ!なにっ?
訳もわからず、思いっきり合わせていた・・・・・。
急いでスラッグを取りながら、テンションを抜かないように聴いてみる?
グッ・・グングン。。  よし!乗っている!!
でも何か違う。。。軽い感じがする。
あの根掛かりのような重さは無いし、首も振らない。何だろう・・・?
押しの強い流れの中にもかかわらず、その魚はあっさりと寄ってきた。
今日、第一投目で反応してきたのは30センチ弱のオオガイだった。
・・・・・。。
外道が大好きなI君を羨やましがらせてやろうと、
手早く「携帯電話のカメラ」で一枚撮って、リリースしてあげる。
フックは上唇を貫通してはいたが、出血もしていないし大丈夫だろう。
それから十数投はしただろうか・・・?
先週〝彼女〟と出逢った、あの< Point S >に行きたくなってしまった。

その流れの前に立つと、あの時の興奮がありありと蘇って来た。
重さ、強さ、速さ、そして輝き!
〝彼女〟のことも、過去に出逢った〝彼女たち〟のように、
何度も、何度も、何度も、思い出されるに違いない。

頭上に覆い被さるような木の枝や、“いばら”が邪魔でキャストし難い。
ベイトタックルなのでなおさらだ。
バックラッシュを気にしながら、数投しただろうか・・・・・?
スプーンが着底してすぐに、竿をあおり底を切ってやる。
ここは根がきつく、ぼやぼやしているとたちまち根掛かってしまう。
リーリングを開始してすぐ、竿先にスプーンの泳ぎが伝わってくる。
何度目かのウォブリングの後、 コツン! と来た・・・・・。
しまった!
合わせられなかった・・・・・。

後で考えれば、何でも自分の都合のいいように解釈出来るが、
正確に言えば「合わせられなかった。」のではなく、「合わせなかった」のかも知れない。
釣り人は自分の中に、それぞれの『 基準 』を持っていると思う。
リーリングスピードにしてもそうだ。
スローリトリーブとひとことで言うが、ハンドル1回転に2秒かけるか3秒かけるかは、
個人個人、かなりのバラツキがあるものだ。
誰が何と言おうとかまわない。
あの時、あのコツン・・・は、自分自身のなかで基準に達していなかったのだ。
それは、頭で判断するものではなく、身体がそう判断したのだ。
コツンと来たあと、何事も無かったようにリーリングを続けた・・・。

そして、5秒後にドラマはおこった・・・・・。

最初、何かに押さえ込まれたような感じがした・・・。
流れの中をウォブリングしながら泳いでいるスプーンを、まるで誰かが水の中に居て、
“ギュッ”と握ったような感じ、と言えば解ってもらえるだろうか?
無意識に、思いっきり合わせを入れていた。
・・・動かない・・・? なんだろう・・・・? 根掛かりだろうか。
ラインテンションはそのままに、もう一度、
合わせると言うより、竿をあおってやる感じだ。
そいつは、突然動きだした。。。。。
グングン・・・グングン・・・。。本命だ!間違いない!  “彼女”だ!!
抜けるのなら、抜けてしまえ! とばかりに、もう一度強く合わせを入れる。
ググン・・グングーン・・・・・乗ったっ! フッキングしている!
最初の突っ込みをロッドワークで凌いだあと、
早くその‘ 姿 ’が見たくて、浮かせようと試みる・・・。かなり重い!
ほんの一瞬、水面まで浮上してきた“彼女”はキラキラと輝くように美しい。
フックは間違いなく口の中に掛かっていた。
ただ、右側面だったのでこちらからは陰になってはっきりと見えない。
何度も何度も上流に向かって走ろうとしている。そして、何度も頭を振る。
いちど、鋭く突っ込まれて、
思わずドラグを緩めすぎてしまい、5メートル以上も走られてしまった。

ラインは昨夜巻いたばかりの16lbだし、切れる筈は無い。
自分の手で一本一本丁寧に巻いたシングルフックは、しっかりと上顎に掛かっている。
ロッドは予想以上の強靭さで、バットが度重なる走りを受け止めてビクともしない。
ベイトリールがこんなにも力強いものだったとは知らなかった。
でもなにより、先週の経験がなかったらこんなに冷静でいられただろうか・・・?

誰かが言っていた。
「釣りとゆうものは、最後には魚に教えられるものだ。」

ドラマは終焉に近づいていた。
全ての状況で、“彼女”が遡上を継続できる可能性は限りなくゼロに近かった。
“彼女”の不運はこれだけではない。
足場の高い< Point N >のために、
今日は、対シーバス用の60センチ枠のネットを持って来ていたのだ。
その枠の中に“彼女”が納まった時に。
またひとつ・・・・・物語の幕が下りた。

日時    平成16年4月1日  午前5時50分
河川    北上川  
体長    59センチ

ストリンガーに掛けたあと、流れの中を堂々と泳ぐ“彼女”を堪能しながら、
仲間の一人であるS君に電話をした。

 「今、上げたよ!」

 「〇〇さん、今日は何月何日だかわかってるの・・・?」

 「あっ!そうか、今日は4月1日か・・・・・いや、ウソじゃ無いって・・・。」





            間違いなく、あの日の桜鱒は宝石のように輝いていた  
                  

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